在宅療養を続けるうえで「訪問看護」は欠かせないサービスです。しかし利用にあたって、「医療券(医療依頼書)が必要かどうか」という疑問を持つ方は少なくありません。
生活保護を受給している方、指定難病の受給者証がある方、障害者医療費助成を受けている方——それぞれで手続きや費用負担の仕組みが大きく異なります。「ステーション側の担当者に聞いてもよくわからなかった」という声もよく聞きます。
この記事では、訪問看護における医療券の仕組みを基礎から整理し、医療券が必要なケース・不要なケースの全パターン、主な公費負担制度の詳細、実務上のトラブル事例まで、専門家目線でわかりやすく解説します。
Contents
この記事でわかること
- 医療券(医療依頼書)とは何か、誰に必要か
- 訪問看護における医療保険・介護保険の優先順位
- 生活保護の医療扶助・介護扶助の違いと手続き
- 医療券が必要・不要になる全パターン
- 指定難病・小児慢性特定疾病・障害者医療費助成・原爆被爆者・労災保険の詳細
- 別表7・別表8と生活保護の関係
- 訪問看護ステーションが行う事務手続き
- 実務上のトラブルと対処法(5事例)
- よくある質問(FAQ 7問)
訪問看護における医療保険と介護保険の基本整理
どちらの保険が優先されるか
訪問看護は「医療保険」と「介護保険」のどちらでも利用できるサービスです。ただし、原則として65歳以上で要介護・要支援認定を受けている方は介護保険が優先されます。
| 区分 | 適用保険 | 備考 |
|---|---|---|
| 40歳未満 | 医療保険 | 介護保険の対象外 |
| 40〜64歳(第2号被保険者) | 原則:医療保険 例外:特定疾病による要介護認定あり→介護保険 | 特定疾病16種が対象 |
| 65歳以上・要介護/要支援認定あり | 介護保険が優先 | 一部例外あり(後述) |
| 65歳以上・要介護認定なし | 医療保険 | — |
介護保険が優先でも医療保険が使えるケース
65歳以上で要介護認定がある方でも、以下に該当する場合は医療保険での訪問看護となります(介護保険の優先原則の例外)。
- 別表7(厚生労働大臣が定める疾病等)に該当する場合:末期がん・多発性硬化症・重症筋無力症・スモン・ALS・脊髄小脳変性症・ハンチントン病・進行性筋ジストロフィー症・パーキンソン病関連疾患・多系統萎縮症・プリオン病・亜急性硬化性全脳炎・ライソゾーム病・副腎白質ジストロフィー・脊髄性筋萎縮症・球脊髄性筋萎縮症・慢性炎症性脱髄性多発神経炎・後天性免疫不全症候群・頸髄損傷・人工呼吸器を使用している状態
- 別表8(特別管理加算の対象)に該当する場合:在宅悪性腫瘍等患者指導管理・在宅気管切開患者指導管理・気管カニューレ使用・留置カテーテル使用・在宅自己腹膜灌流指導管理・在宅血液透析指導管理・在宅酸素療法指導管理・在宅中心静脈栄養法指導管理・在宅成分栄養経管栄養法指導管理・在宅自己導尿指導管理・在宅人工呼吸指導管理・在宅持続陽圧呼吸療法指導管理・在宅自己疼痛管理指導管理・在宅肺高血圧症患者指導管理など
- 精神科訪問看護が必要な場合(精神科訪問看護指示書による)
- 急性増悪・退院直後等で特別訪問看護指示書が交付された場合(原則月2回まで。状態によって14日間連続算定可)
これらの場合、介護保険の認定があっても医療保険で訪問看護を行います。このことが、医療券の要否を考えるうえでも重要な前提となります。
医療券とは何か——基本をおさらい
医療券(医療依頼書)とは、生活保護を受給している方が医療サービスを利用する際に、管轄の福祉事務所(市区町村)が交付する書類です。正式名称は「医療券・調剤券」で、医療機関や訪問看護ステーションなどに提示することで、利用者の自己負担分が医療扶助(生活保護費の一つ)で支払われます。
医療券の主な特徴は以下のとおりです。
- 原則として毎月1回、福祉事務所が発行する(月ごとに更新)
- 利用できる医療機関・訪問看護ステーションは生活保護の指定を受けた施設に限定
- 医療券がないと、ステーション側は医療扶助として請求できない
- 訪問看護の場合、介護保険が適用される場合は「介護券」が別途必要となる
医療券と介護券の違い
| 種類 | 対応する扶助 | 利用場面 |
|---|---|---|
| 医療券 | 医療扶助 | 医療保険で訪問看護を利用する場合 |
| 介護券 | 介護扶助 | 介護保険で訪問看護を利用する場合 |
生活保護受給者でも介護保険適用の場合は介護券、医療保険適用の場合は医療券が必要です。どちらの券も「生活保護を受給している方向けの書類」であることは共通しています。
生活保護の医療扶助・介護扶助を詳しく解説
生活保護の8つの扶助
生活保護には全部で8種類の扶助があります。訪問看護と関わりが深いのは医療扶助と介護扶助の2つです。
| 扶助の種類 | 内容 |
|---|---|
| 生活扶助 | 日常生活費(食費・被服費など) |
| 医療扶助 | 医療費(訪問看護も含む) |
| 介護扶助 | 介護サービス費(介護保険の自己負担分など) |
| 住宅扶助 | 家賃・住宅維持費 |
| 教育扶助 | 義務教育の学用品費など |
| 出産扶助 | 出産費用 |
| 生業扶助 | 就労のための技能習得費など |
| 葬祭扶助 | 葬祭費用 |
医療扶助の特徴
医療扶助は、生活保護受給者が医療保険で受ける訪問看護・診療・入院などの費用を全額公費で賄う仕組みです。
- 自己負担ゼロ(医療保険の一部負担金が不要)
- 利用できる医療機関・ステーションは生活保護指定施設のみ
- 医療券の提示が必要(月ごとに更新)
- 薬局での調剤には「調剤券」が別途必要
- 原則として指定医療機関への受診が必要(緊急時は例外)
介護扶助の特徴
介護扶助は、生活保護受給者が介護保険で受ける訪問看護・訪問介護・通所サービスなどの利用者負担(1割)を公費で賄う仕組みです。
- 介護保険の1割負担分を介護扶助で補う(介護券を使用)
- 65歳以上は介護保険の保険料も生活保護費から支給される
- 40〜64歳の第2号被保険者で生活保護受給者の場合、介護保険料は生活保護から支給されない(みなし2号として介護扶助で対応)
- 介護サービスの計画(ケアプラン)はケアマネジャーが作成
他法他施策優先の原則
生活保護法には「補足性の原理」があり、その中の重要な考え方が「他法他施策優先の原則」です。
これは、他に利用できる公的な給付・支援制度がある場合は、まずそちらを優先的に活用しなければならないという原則です。訪問看護においては、指定難病の受給者証や障害者医療費助成が使える場合は先にそれを適用し、残った自己負担がある場合に初めて医療扶助(医療券)で補う流れになります。
医療券が必要・不要になる全パターン
パターン①:生活保護を受給していない場合
生活保護を受給していない方には医療券は一切不要です。通常の医療保険(国民健康保険・協会けんぽ・組合健保など)または介護保険を使って訪問看護を利用します。自己負担は医療保険なら1〜3割、介護保険なら原則1割(所得により2〜3割)です。
パターン②:生活保護受給者で介護保険が適用される場合
65歳以上(または40〜64歳で特定疾病による要介護認定)で要介護・要支援認定がある生活保護受給者が訪問看護を利用する場合、介護保険が優先されます。この場合に必要なのは医療券ではなく介護券です。介護扶助で1割の利用者負担が補われます。
パターン③:生活保護受給者で医療保険(別表7・別表8等)が適用される場合
介護保険対象者であっても、別表7・別表8の疾病・状態に該当する場合は医療保険で訪問看護を行います。この場合は医療券が必要です。医療扶助によって自己負担分が補われます。
パターン④:生活保護受給者で公費負担医療制度が適用される場合
他法他施策優先の原則により、指定難病の受給者証や障害者医療費助成などを持っている生活保護受給者はまずその制度を適用します。公費で自己負担がゼロになる場合は医療券は不要です。ただし制度によって自己負担上限額が残る場合、その残額を医療扶助で補うために医療券が必要になることがあります。
パターン⑤:公費負担医療制度のみで生活保護なし
指定難病受給者証・自立支援医療(精神通院)・小児慢性特定疾病医療費受給者証などを持っていて、生活保護は受給していない方は医療券は不要です。各制度の受給者証を訪問看護ステーションに提示するだけで公費適用されます。
パターン⑥:労災保険が適用される場合
業務上災害または通勤災害により訪問看護が必要な場合、労災保険が適用されます。この場合は健康保険・介護保険・医療券のいずれも不要で、労災指定事業場として請求します。
パターン⑦:原爆被爆者が認定疾病で訪問看護を利用する場合
原子爆弾被爆者に対する援護に関する法律(被爆者援護法)の対象者で、認定疾病として認められた疾患の場合は医療費が全額公費負担となります。医療券は不要で、被爆者健康手帳・認定疾病医療受診証を提示します。
| パターン | 医療券の要否 | 必要な書類 |
|---|---|---|
| 生活保護なし・通常の保険 | 不要 | 保険証 |
| 生活保護あり・介護保険適用 | 不要(介護券が必要) | 介護券 |
| 生活保護あり・医療保険適用(別表7等) | 必要 | 医療券 |
| 生活保護あり・公費制度あり(自己負担ゼロ) | 不要 | 受給者証等 |
| 生活保護あり・公費制度あり(自己負担残あり) | 必要(残額分) | 受給者証+医療券 |
| 公費制度のみ(生活保護なし) | 不要 | 受給者証等 |
| 労災保険適用 | 不要 | 労災指定書類 |
| 原爆被爆者(認定疾病) | 不要 | 被爆者手帳・認定疾病医療受診証 |
主な公費負担医療制度の詳細
① 指定難病(特定医療費助成制度)
制度の概要
難病法(難病の患者に対する医療等に関する法律)に基づく制度で、国が定めた指定難病(現在341疾病)を患う患者の医療費を公費で一部助成します。
対象者・認定基準
- 指定難病の診断を受け、一定の重症度基準を満たす方
- 軽症の方は原則対象外だが、高額療養費に該当する場合は申請可能(軽症高額該当)
訪問看護での適用
- 医療保険での訪問看護に適用(介護保険には原則不適用)
- 特定医療費受給者証に記載された指定医療機関(訪問看護ステーション)でのみ有効
- 自己負担上限月額は所得区分によって0円〜30,000円(一般的には2,500〜20,000円程度)
- 医療保険の2割・3割負担が受給者証の負担割合(通常2割)に軽減される
申請方法
- 主治医(指定医)に診断書(臨床調査個人票)を作成してもらう
- 都道府県・指定都市の窓口(保健所など)に申請
- 審査・認定後、特定医療費(指定難病)受給者証が交付される
- 受給者証を訪問看護ステーションに提示
- ステーション側が指定医療機関として登録されているか確認が必要
ポイント:受給者証に記載されていない訪問看護ステーションでは公費が適用されません。ステーション追加の申請が必要な場合があります。
② 小児慢性特定疾病医療費助成制度
制度の概要
児童福祉法に基づき、18歳未満(継続の場合20歳未満)の子どもが対象の制度です。小児慢性特定疾病(現在788疾病)の診断を受け、一定の重症度基準を満たす場合に医療費が助成されます。
訪問看護での適用
- 医療保険での訪問看護に適用
- 小児慢性特定疾病医療費受給者証に記載された指定医療機関でのみ有効
- 自己負担上限月額は所得区分・患者の状態により0円〜11,500円
- 訪問看護ステーションが指定を受けていることが必要
申請方法
- 指定医に医療意見書を作成してもらう
- 都道府県・指定都市の窓口(保健所など)に申請
- 審査・認定後、小児慢性特定疾病医療費受給者証が交付される
- 受給者証を訪問看護ステーションに提示
③ 障害者医療費助成制度(自立支援医療)
障害者医療費助成には大きく2種類あります。①都道府県・市区町村が独自に実施する「障害者医療費助成(マル障等)」と②障害者総合支援法に基づく「自立支援医療」です。
都道府県・市区町村の障害者医療費助成(マル障など)
- 身体障害者手帳・精神障害者保健福祉手帳・療育手帳などを持つ方が対象
- 自治体により対象範囲・助成内容が異なる(全額助成〜一部負担など)
- 訪問看護(医療保険適用分)にも適用されるケースが多い
- 利用時は障害者医療費受給者証(マル障証等)を提示
自立支援医療(精神通院医療・更生医療・育成医療)
- 精神通院医療:精神疾患で継続的に通院が必要な方(訪問看護も対象)
- 更生医療:身体障害者で手術・治療が必要な18歳以上の方
- 育成医療:身体に障害のある18歳未満の方
- 原則として自己負担が1割(通常3割→1割に軽減)、所得により上限月額あり
- 精神通院医療では訪問看護(精神科訪問看護)への適用が特に重要
申請方法(自立支援医療)
- 主治医の意見書を取得
- 市区町村の障害福祉担当窓口に申請
- 審査・認定後、自立支援医療受給者証が交付される
- 訪問看護ステーションに受給者証を提示
④ 原爆被爆者援護法(被爆者援護)
「原子爆弾被爆者に対する援護に関する法律」に基づき、被爆者手帳を持つ方は被爆者一般疾病医療費助成を受けられます。さらに、被爆が原因と認定された疾病(認定疾病)については医療費が全額公費負担となります。
- 訪問看護においても、被爆者手帳または認定疾病医療受診証を提示することで公費適用
- 認定疾病の場合:自己負担ゼロ(医療費全額公費)
- 一般疾病医療(認定外)の場合:医療保険の自己負担分を助成(一部自己負担が残る場合あり)
- 生活保護との関係:他法他施策優先により、被爆者援護が先に適用される
⑤ 労災保険
業務上の負傷・疾病または通勤途中の災害による傷病で訪問看護が必要な場合、労働者災害補償保険(労災保険)が適用されます。
- 医療費(療養補償給付)は全額労災保険が負担
- 自己負担なし
- 健康保険・医療券は使用しない(労災と健保の併用は原則不可)
- 訪問看護ステーションが労災保険指定事業場として登録されていることが必要
- 請求は「療養補償給付たる療養の費用請求書(様式第7号等)」を労働基準監督署へ
- 傷病が業務と無関係の部分に対しては健康保険が適用
別表7・別表8と生活保護の関係
別表7とは
「厚生労働大臣が定める疾病等(別表7)」は、介護保険対象者(65歳以上の要介護者等)であっても医療保険で訪問看護を行うことができる疾病・状態のリストです。末期がん、ALS、多発性硬化症、人工呼吸器使用状態など20の疾病・状態が含まれます。
生活保護受給者で別表7に該当する場合は、医療保険での訪問看護となるため医療券が必要です(介護券ではありません)。
別表8とは
「厚生労働大臣が定める状態等(別表8)」は、介護保険対象者であっても週4日以上の頻回な訪問看護が可能となる状態のリストです(通常の介護保険訪問看護は週3日まで)。
別表8の場合でも保険の適用は介護保険のまま(別表7とは異なります)。生活保護受給者であれば介護券が必要です。
| 別表7 | 別表8 | |
|---|---|---|
| 訪問看護の保険 | 医療保険(介護保険より優先) | 介護保険のまま |
| 違い | 保険の種類が変わる | 訪問日数制限が緩和される |
| 生活保護受給者に必要な券 | 医療券 | 介護券 |
訪問看護ステーションが行う事務手続き
医療券・介護券の確認フロー
訪問看護ステーションの事務担当者が毎月行う確認業務の流れは以下のとおりです。
- 保険の種類を確認:医療保険か介護保険か(別表7該当の有無も確認)
- 公費負担制度の有無を確認:受給者証・手帳類の有無と有効期限を確認
- 生活保護受給の有無を確認:受給者であれば医療券または介護券が必要
- 医療券・介護券の受領:毎月、福祉事務所から利用者経由または直接送付される
- 券の内容確認:有効期間・利用者番号・扶助の種類・指定医療機関番号などを照合
- レセプト(請求書)への記載:医療券番号・介護券番号を正確に記載
請求の流れ(医療保険+医療扶助の場合)
- 訪問看護を実施
- 訪問看護療養費(医療保険分)を社会保険診療報酬支払基金または国民健康保険団体連合会(国保連)へ請求
- 医療扶助分(自己負担相当)を都道府県・市区町村の福祉事務所管轄の国保連へ別途請求(医療券番号を使用)
- 審査・支払いを受ける
請求の流れ(介護保険+介護扶助の場合)
- 訪問看護を実施
- 介護保険分(9割)を国保連へ請求
- 介護扶助分(1割相当)を国保連へ別途請求(介護券番号を使用)
- 審査・支払いを受ける
指定医療機関としての登録
生活保護の医療扶助・介護扶助に対応するには、訪問看護ステーションが生活保護法の指定医療機関・指定介護機関として登録されていることが必要です。新規開設のステーションや指定更新が漏れているケースでは請求ができないため、開設時に必ず確認が必要です。
よくある実務上のトラブルと対処法
トラブル①:月初めに医療券・介護券が届かない
状況:生活保護受給者の訪問看護を月初めから継続しているが、医療券(または介護券)が月初めに手元に届いておらず、訪問を始めてよいか迷う。
対処法:医療券は原則として月ごとに発行されますが、到着が遅れることは珍しくありません。前月の指示書・受給者情報が継続しているうちは訪問を実施し、医療券が届き次第確認する運用が一般的です。ただし、万が一受給資格が失効していた場合に備え、事前に福祉事務所に電話確認するか、ケアマネジャー・担当ワーカーに確認を取ることを推奨します。
トラブル②:受給者証の有効期限切れを見落とした
状況:指定難病受給者証を使って請求していたが、有効期限が切れていた月分の請求が返戻された。
対処法:受給者証の有効期限は毎年確認する必要があります。更新時期(都道府県によって異なるが9〜12月ごろが多い)には特に注意が必要です。有効期限が切れていた期間分は、更新手続き後に再申請・レセプト再提出が可能なケースもありますが、認められない場合は全額自己負担となります。定期的に有効期限をカレンダーで管理するシステムを構築することを推奨します。
トラブル③:生活保護受給者が無断で医療保険証を使って訪問看護を受けていた
状況:生活保護受給者が国民健康保険証を提示して利用していたが、実際は生活保護受給中のため保険証は失効していた(生活保護受給中は国民健康保険から脱退が原則)。
対処法:生活保護受給者は原則として国民健康保険の被保険者資格を喪失します。もし保険証で請求してしまうと、後日保険者から返金請求が来る可能性があります。受付時に生活保護受給の有無を確認し、医療券の提示を求める手順を徹底することが重要です。発覚した場合は速やかに福祉事務所に連絡し、医療扶助として遡及請求できるか確認します。
トラブル④:指定難病受給者証にステーションが登録されていなかった
状況:利用者が指定難病受給者証を持参したが、受給者証の「指定医療機関」欄に当ステーションが記載されていなかった。
対処法:指定難病の公費が適用されるのは、受給者証に明記された指定医療機関のみです。ステーションを追加する場合は、利用者が保健所等に「指定医療機関の変更・追加申請」を行う必要があります。手続き完了まで公費は使えないため、その間は通常の医療保険での請求か、利用者負担として対応します。新規利用者の受け入れ時に必ず受給者証の機関記載を確認する体制を整えましょう。
トラブル⑤:自立支援医療(精神通院)の対象外の訪問看護を請求してしまった
状況:精神科訪問看護の利用者に自立支援医療受給者証があったが、その受給者証は「精神通院医療」のものではなく「更生医療」のものだったため、精神科訪問看護への適用は不可だった。
対処法:自立支援医療には「精神通院医療」「更生医療」「育成医療」の3種類があり、それぞれ適用範囲が異なります。受給者証を受け取った際は種類・対象の医療内容・有効期限・指定医療機関を必ず確認します。誤請求が判明した場合は速やかに返戻・再請求の手続きを行います。
よくある質問(FAQ)
Q1. 生活保護受給者が指定難病受給者証も持っている場合、どちらを使えばよいですか?
A. 他法他施策優先の原則により、まず指定難病受給者証を使って公費適用します。指定難病の助成で自己負担がゼロになる場合は医療券は不要です。自己負担上限額が残る場合(例:月額2,500円の自己負担が残る場合)は、その残額を医療扶助(医療券)で補います。ケースワーカーや訪問看護ステーションの事務担当者と連携して確認することをおすすめします。
Q2. 訪問看護で医療保険と介護保険の両方を同時に使えますか?
A. 原則として同一月に同一の訪問看護ステーションで医療保険と介護保険を併用することはできません。ただし、別表7に該当する疾病の場合は介護保険認定があっても医療保険のみで訪問看護を行います。また、別のステーションからの訪問であれば介護保険と医療保険がそれぞれ適用されるケースもあります(主治医の指示書が別途必要)。
Q3. 公費助成制度を使えば訪問看護は全額無料になりますか?
A. 制度や所得区分によって異なります。指定難病では所得区分に応じた自己負担上限月額(0〜30,000円)が設定されています。小児慢性特定疾病や障害者医療費助成(自立支援医療)も同様に自己負担が残る場合があります。生活保護受給者の場合は、残った自己負担を医療扶助で補うため実質無料になります。各制度の詳細は都道府県・市区町村の窓口で確認してください。
Q4. 医療券は毎月もらわないといけないのですか?
A. はい、医療券は原則毎月発行されます。生活保護の継続審査が毎月行われるため、月ごとに医療扶助の必要性を確認する目的があります。ただし、実務上は継続利用の場合でも月初めに自動的に送付される運用になっている地域が多いです。万が一届かない場合は、利用者または福祉事務所担当ワーカーに確認します。
Q5. 訪問看護ステーションが生活保護の指定を受けていない場合、どうなりますか?
A. 生活保護法の指定医療機関・指定介護機関でない場合、医療扶助・介護扶助での請求ができません。その場合、利用者が全額自己負担となるか、別の指定を受けたステーションを紹介する必要があります。新規開設時や更新時には必ず指定申請を行い、有効期限も確認しておきましょう。
Q6. 労災保険が適用される場合、ステーション側の手続きは?
A. 労災保険で訪問看護を提供するには、労災保険の指定事業場(医療機関)として登録されていることが必要です。請求は「療養補償給付たる療養の費用請求書」を所轄の労働基準監督署へ提出します。健康保険証は使用しません。未登録の場合は労働局への申請が必要です。
Q7. 入院から退院後すぐに訪問看護を開始する場合、医療券の手続きはどうなりますか?
A. 退院直後の生活保護受給者が訪問看護を開始する場合、福祉事務所への事前連絡が重要です。退院日が決まったら担当ケースワーカーに連絡し、訪問看護の必要性を伝えます。医療券の発行には数日かかることがあるため、可能な限り事前に手配します。退院直後で医療券が間に合わない場合の対応は地域によって異なるため、あらかじめ福祉事務所と取り決めておくことをおすすめします。
まとめ
訪問看護における医療券の要否は、利用者の状況によって複雑に異なります。ポイントを整理すると以下のとおりです。
- 医療券は生活保護受給者が医療保険で訪問看護を利用する場合に必要な書類
- 生活保護受給者でも介護保険適用なら介護券が必要(医療券は不要)
- 他法他施策優先の原則により、指定難病・障害者医療費助成などの公費負担制度がある場合はそちらを先に適用
- 指定難病・小児慢性特定疾病・自立支援医療などは生活保護なしでも受給者証で医療費が軽減される
- 労災保険・原爆被爆者援護では健康保険・医療券いずれも不要
- 別表7該当の疾病は介護保険対象者でも医療保険で訪問看護となるため医療券が必要(受給者の場合)
- 訪問看護ステーション側は指定医療機関・指定介護機関の登録と毎月の医療券・介護券確認が必須
実務では「どの保険が使えるか」「公費はあるか」「生活保護受給中か」の3点を毎月確認することが、請求ミスを防ぐための基本です。不明な点は福祉事務所・保健所・担当ケアマネジャーと連携して確認する体制を整えておきましょう。

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